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第080-2話 色々な方面の人気者

Auteur: 百舌巌
last update Dernière mise à jour: 2025-04-17 11:01:34

『ワカモリさん。 どうしましたか?』

『急で申し訳ないけど、偽造パスポートを都合して貰えないか?』

『ワカモリさんは日本人ですから、日本のパスポートをお持ちになった方が色々と捗りますよ?』

 日本のパスポートの信頼度は高い。他の国のパスポートでは入国管理の時に念入りに質問されるが、日本のパスポートの場合には簡単な質問のみの場合が多いのだ。

 スネに傷を持つ犯罪者たちには垂涎の的なのだ。

『ワカモリのパスポートは使えないんですよ』

『え?』

『色々な方面に人気者なんでね』

『ええ確かに……』

 ケリアンが苦笑を漏らしていた。ディミトリが言う人気者の意味を良く知っているからだ。

 公安警察の剣崎が自ら乗り出してきた以上は、ワカモリタダヤスは逃亡防止の意味で手配されていると考えていた。

『分かりました。 少しお時間をください』

『どの位かかりますか?』

『一ヶ月……』

 ディミトリが依頼しているのは偽造パスポートだ。作成するには色々と下準備が必要なものだ。それには時間もお金もかかる物なのだ。

『もう少し早くお願いします。 厄介な所に目を付けられているんですよ』

『警察ですか?』

『公安の方ですね』

『分かりました……』

 中国にも公安警察は存在する。そこは欧米などの諜報機関に相当する部署だ。ディミトリが傭兵だった時にも、噂話は良く耳にしていたものだ。

 荒っぽい仕事をするので海外での評判は悪かったのだ。

 日本には諜報機関は存在しない事になっている。だが、日本の公安警察がそれに相当する組織と見なされていた。

 もっとも、国内に居る犯罪組織や日本に敵対する組織の監視が主な任務で、海外の諜報機関のように非合法活動で工作などしたりはしない事にはなっている。だが、表があれば裏が有るように、ディミトリはそんな話は信用していなかった。

 ディミトリが『公安警察』に目を付けられていると聞いたケリアンは、ディミトリが急ぐ理由が分かったようだった。

『では、二週間位見ておいてください』

 少し考えていたのか間をあけてケリアンが返事してきた。

 偽造パスポートが出来たら部下に届けさせるとも言っていた。ケリアンは香港に居るらしい。日本国内だと身の危険を感じるのだそうだ。

『しかし、人気者だとしたら日本から出国する際に、身元の照会でバレるかも知れませんよ?』

 日本には顔認証による人物照会を行
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    自宅。 ディミトリは病院から帰宅してから部屋に籠もったままだった。 ベッドに転がって天井を睨みつけながらこれからの事を考えていた。 先日の剣崎とのやり取りで気になったことがあったのだ。 一番はヘリコプターを操縦する姿を撮影されていた事だ。 これは、常に張り付きで見張られていた事を示している。きっと、ジャンの倉庫に連れ込まれてひと暴れしたのも知っているのだろう。『人を撃った銃をいつまでも持っているもんじゃないよ』 剣崎はそう言ってディミトリが持つ銃を持っていった。(そう言えば、あれって弾が残っていなかったじゃないか……) 鞄の底から銃を見つけた時に、弾倉を確認していたのを思い出していた。その後、剣崎がもったいぶって登場したのだ。 あれは狙撃手が銃を手に持ったのを確認していたのだろう。つまり、ディミトリが銃と弾倉を触ったのを監視していたのだ。(指紋付きの銃を持っていかれたんじゃ言い訳が出来ねぇじゃねぇか……) 恐らく、倉庫からジャンの手下の遺体を回収済みだろう。遺体の幾つかはあの銃で撃ったものだ。線条痕と指紋付きの銃を持っていかれたらディミトリが犯人だと証明できてしまう。(こっちの弱みを握って何をさせるするつもりなんだよ……) 剣崎は『公安警察』だと言っていた。自分の知識の範囲内では『日本の諜報機関』との認識だった。(俺の家を見張っていたのも剣崎だったのかも知れないな……) オレオレ詐欺グループのアジトを襲った時に、何故か警察のガサ入れが有った。あれは剣崎の指示でやらせたのかも知れない。 それにパチンコ店の駐車場で暴れた時も、店の防犯カメラがディミトリを映していないも不思議だった。それも、剣崎が『故障』させた可能性が高い。ディミトリの存在を秘匿して置きたいのだろう。(金には興味無さげだったな……) 何度目かの寝返りをうって剣崎との会話を思い出していた。一兆円の金を『端金』と言っていた。 本心かどうかは不明だが、普通の奴とは違う考えを持っているようだ。(まあ、確かに人を殺めるのに躊躇いが無い奴は、手駒にしておくと便利だわな……) 便利な使い捨ての駒が手に入ったと剣崎は考えているのかも知れない。(今どき殺し屋でも無いだろうに……) どっちにしろ、まともに扱われるとは思えない。(人の目を気にしながら歩きたく無いもんだな……)

  • クラックコア   第079-2話 オレンジ色のドットポイント

    「一つは中国系で日本のチャイニーズマフィアと繋がりがある……」(ジャンの所か……)「一つはロシア系で日本の半グレたちと繋がりがある……」(チャイカの所だな……) ディミトリは何も反論せずに剣崎の話を聞いていた。「全員、君が握っている情報に彼らは興味があるそうなんだがな?」「さあ、何の話だかね……」 麻薬密売組織の資金の事であるのは分かってはいるがトボけた。どう答えても面倒事になるのは分かっているからだ。「少なくとも君を巡って二つの組織が動いている」「中年のおっさんにモテるんだよ。 俺は……」「まあ、特殊な性癖を持つ人には魅力的なのかも知れないが私には分からんよ」「そいつらが探しているのが俺だと言いたいんで?」「他に誰がいるんだ?」 剣崎はディミトリの話など興味ないように続けた。「東京の端っこに住んでる中学生が握ってる情報なんて、近所のゲーセンに入っている機種は何かぐらいだぜ?」「それはどうかね……」「俺はその辺に転がっている平凡な中学生の小僧ですよ?」「それは君にしか分からない事かもしれないね…… 若森くん」「あんた……」「前に来た刑事たちとは違う匂いがするね……」「君と同類の匂いでもするのかい?」「……」「君の言う平凡な中学生ってのは、ヘリコプターを操縦できるのかい?」 剣崎が写真を一枚投げて寄越す。ディミトリは受け取らずに落ちるに任せた。足元に白黒写真が落ちた。 そこにはヘリコプターを操縦する若森忠恭が写り込んでいた。「ヘリの操縦の特殊性は理解しているつもりだ。 機体を五センチ浮かせて安定させるのに半年は掛かるんだそうだ」「……」「最近の中学生はヘリの操縦までするのかね?」「保健体育で習ったのさ」 ディミトリは負けじと言い返した。「それともディミトリ・ゴヴァノフと呼んだ方が早いかな?」「……」 ディミトリの眼付が険しくなった。部屋中にディミトリの殺意が充満していくようだ。「あんたも麻薬組織の金が目当てか?」「……」 ディミトリは銃を引き抜き剣崎に向けた。もちろん殺すつもりだった。だが、引き金を引こうとした時にある事に気がついた。 オレンジ色のドットポイントが剣崎の額に灯っているのだ。だが、それは直ぐに消えた。「クソがっ……」 ディミトリの経験上、ドットポイントが意味するのは一つだけだ。

  • クラックコア   第079-1話 男たちの連鎖反応

    大川病院の一室。 ディミトリは退院をする為に起き上がっていた。安静にしていれば肩の骨は繋がるだろうとの診断がおりたのだ。 骨にヒビが入った程度の怪我では長期は入院させて貰えないのだ。他の重篤な患者用に退院させられる。 退院の為に荷物づくりをしているのだ。左手が効かないので右手だけでやっている。 着替えなどを鞄に入れていると、その着替えの入っていた鞄の底に銃があった。(え? 何故?) 銃を手にとってみるとジャンの倉庫から脱出する時に使っていたトカレフだ。弾倉を抜き出して確認してみると、中に弾は残っていなかった。(一緒に持ってきた?) 話を聞いた限りでは、身一つで病院の応急処置室に放置されていたと聞いている。それにこんな物騒な物を持っていたら、警察の方で問題視されているはずだ。(アオイが置いて行ったのかな……) ディミトリが入院している間にアオイはやって来て無い。(病室に自分は来たというサイン?)(いやいやいや…… 普通に書き置きで良いだろ……) これが見つかると拙い立場に立たされてしまう。そういう事を思いつかない女では無いはずだとディミトリは訝しんでいた。(そう言えばお婆ちゃんが玩具で遊ぶのも程々にしろと言っていたような気がする……) 祖母はコレを見て、孫の部屋にあったモデルガンを思い出したに違いない。 そんな事を色々考えていると病室の扉がノックされた。ディミトリは慌ててトカレフを背中に隠した。日課のようにやって来る刑事たちだと思ったのだ。「どうぞ」 返事をすると男が一人入って来た。だが、男は毎日やって来る刑事とは違う男だった。「やあ、若森くん…… 君に事故の事を詳しく聞かせて欲しいんだよ……」「いつもの刑事さんたちじゃ無いんですね……」「ああ、所属先が違うもんでね」 ディミトリは警戒しはじめた。刑事たちの眼付は鋭いが、この男からは違った雰囲気を感じ取ったのだ。 そんなディミトリの思惑を無視するかのように質問をし続けた。「君が道路に飛び出した訳を聞きたくてね」「ちょっと、道路を渡ろうとしただけですよ」「そう…… 君が事故に巻き込まれるちょっと前に、パチンコ店に車が飛び込んで来てね」「はあ……」「運転していた男の背格好が君にソックリなんだよ」「僕じゃ無いですよ」「パチンコ店に飛び込んで来た車は、パチンコ店に併

  • クラックコア   第078-2話 疫病神

     十代の頃に自動車の窃盗で捕まった事がある。その時に、相手の刑事に嘘を並べ立てたがどれも通用しなかった。 最初から全部バレていて全て反論されて自白させられたのだ。 自分では整合性を合わせているつもりでも警察には通用しない。何しろ悪知恵の回る嘘つき相手の商売だ。小悪党の浅知恵など通用しないのだ。 刑事たちを病室の入り口まで見送った祖母は、戻ってくるなりディミトリに尋ねてきた。「タダヤス…… お前は何をしてるんだい?」 祖母はディミトリが無断外泊していた事は言わなかったようだ。ふらりと居なくなったかと思えば、車に刎ねられて病院に入院している。何を考えているのか心配でしょうがないのだろう。 自分はどうやって病院に来たのかと尋ねたら、緊急病室のベッドの上にいつの間にか居たのだそうだ。 幸いタダヤスの顔を知っている看護師が、若森忠恭の事を思い出してくれたらしい。彼は長いこと入院していたのだ。 傷だらけでベッドの上に放り出されていたので騒動になったのも頷ける。それで警察が呼ばれたらしかった。 もちろん、祖母はディミトリの本性は知らない。タダヤスの脳に人工的にディミトリィの魂が埋め込まれているなどと知らせるつもりは無いのだ。それは彼女の為にならないだろう。「ん……」 不意に頭痛がディミトリを襲った。彼の顔がたちまち曇っていった。「痛むのかい?」「ああ、少し横になるよ……」 そう言ってベッドに横になった。この偏頭痛は副作用的なものであるらしい。 無理やり書き込んでいるので、脳の処理が追いつかず肥大化する原因になっていると予測している。脳の活動が活発になりすぎているのだろう。やがて脳が肥大化しすぎて機能停止するとも博士が言っていたような記憶がある。(それって、結構ヤバイ状態じゃないのか?) ディミトリは頭痛の理由が分かり少し焦りを覚えた。今のところはディミトリの人格が現れているに過ぎない。外見的にはタダヤスである。 ディミトリを追いかけ回す連中も事情は知っているのだろう。だから、焦っているのかも知れないとディミトリは思った。 目的はディミトリが持っている資産だ。 それは、中南米の某銀行に預けられている。百億ドル(約一兆円)にもなる金だ。 だから、魂が消えてしまう前にお宝の在り処を聞き出す必要があるのだ。(連中が躍起になって俺を追いかけ回す

  • クラックコア   第078-1話 何処にでも居る小僧

     看護師が出ていくのと入れ替えで祖母が入ってきた。ディミトリが起き上がって居たのにビックリしたようだ。 それでも心配だったのか、優しく声を掛けてきた。「タダヤス…… 大丈夫かい?」「大丈夫」「本当に男の子はヤンチャで困るわねぇ」「心配かけてゴメンナサイ……」 ディミトリは祖母には素直になるのだ。大好きな祖母に頭を撫でられて泣きそうになってしまった。 果たして祖母にどう説明したものかと考えていたら、病室のドアがノックされてどやどやと男たちが入ってきた。 一人は白衣を着ていたので医師だと分かったが、残りの男二人はスーツを着ていた。しかも眼付が鋭い。(こういう眼付の悪いのは刑事と相場は決まってるな……) 医者は頭痛はするかとか、吐き気は無いかとか質問していた。「こちらは所轄署の刑事さんたちだ」 そう刑事たちを紹介した。車の事故が通報されて、刎ねられた若者が連れ去られたと手配されていたのだ。 捜査していると似たような背格好の男が病院に入院しているので調べに来たらしい。「病状が安定してませんので、質問は手短にお願いしますね?」「はい……」 刑事たちが医者に頭を下げると、それが合図だったかのように看護師を従えて出ていった。「やあ、事故の事を詳しく聞かせて欲しいんだよ……」 ディミトリの方に向き直った刑事たちが尋ねて来た。「道路を渡ろうとしたら車に刎ねられたんです」「横断歩道じゃない所だよね?」「ええ…… 信号機の所まで行くと時間が掛かりそうだったので……」 ここで刑事たちは何事か耳打ちをしていた。そして、今の話をメモ書きするする振りをしながら質問を重ねて来た。「誰かに追いかけられていたと証言する人が居るんだけどね?」「いえ、そんな事無いですよ」 やはり何人かに目撃されて居たようだ。まあ、パチンコ店に車で突っ込んだのだからしょうが無いことだろう。「当日、パチンコ店に車が激突してたんだが、運転していたのは君にソックリだと言われているんだけどね?」「車の免許は持ってないですよ?」「目撃者の証言する年格好が同じに見えるだけどね?」「さあ、そう言われてもね…… 見ての通り何処にでも居る小僧ですよ?」 パチンコ店には至る所に防犯カメラが有るはずだ。それにディミトリが映っている筈なのだが刑事たちの歯切れが悪い。 ひょっとしたら、

  • クラックコア   第077-2話 上書き保存

    (まあ、上書きされるのだから消えてしまうのだろうな……) 一家は全滅するわ脳は乗っ取られるわで、ワカモリタダヤスは地球上でもっともツイテナイ奴だったようだ。(しかし、見ず知らずの小僧に上書き保存されているのか……) 何だかパチモンのUSBメモリーに保存された、違法ソフトの気分に成ってきたのだった。「最近、偏頭痛が酷くないかね?」「ああ、失神してしまうぐらいに手酷いのが襲って来るよ」「その偏頭痛は副作用的なものだな」「……」「他人の脳に無理やり書き込んでいるので、脳の処理が追いつかず肥大化しはじめとるんじゃ」「すまない。 人間に優しい言葉にしてくれ……」「脳の活動が活発になりすぎている。 なら良いか?」「ああ……」「やがて脳が肥大化しすぎて機能停止してしまうかも知れんな…… ふぇっふぇっふぇ……」 博士がそう言って力無く笑い声を出した。「そうか…… じゃあ、元に戻るには自分の身体が必要と言うことだな?」「……」 ディミトリは相手に書き込みが出来るのなら、元に戻すことも出来るのではないかと考えたのだ。 それで博士に質問してみたのだが彼は俯いて黙ったままだった。「?」「……」 ディミトリは振り返って博士を見た。項垂れている。明らかに様子がおかしい。「博士?」「……」 アオイが博士の身体を揺さぶってみたが反応は無い。 彼女は博士の首に指を当てて呟いた。「死んでるみたい……」 博士は椅子に座ったまま絶命していた。シートの下に血溜まりが見えている。 ヘリコプターが飛ぶ時の銃撃戦の弾丸が腹部に命中していたのだった。「くそっ、肝心なことを言わずに……」 一番聞きたかった所を言わずに博士は逝ってしまったようだ。 ディミトリの自分探しの旅は終わりそうに無かった。見知った天井。(うぅぅぅ…… ここはどこだ?) ディミトリは眩しそうに目を開けた。眩しいのは自分の頭上にある蛍光灯のせいのようだ。 だが、視界が定まらないのかグルグルと部屋が回っているような感覚に襲われている。いつもの既視感である。(くそ…… またかよ……) どうやら、お馴染みの大川病院であるようだ。 ディミトリはジャンたちが使っている産業廃棄物処理場にヘリコプターを着陸させた。ここなら無人であると思っていたのだが、考えていた通りに誰も居なかった。ヘリコ

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